セミナーレポート

日本臨床外科学会 学会賞受賞

土屋 誉 先生【特別インタビュー】

公益財団法人 仙台市医療センター 仙台オープン病院 院長
2025年03月10日
※この記事の内容は公開当時の情報です

第86回 日本臨床外科学会学術集会 学会賞受賞記念講演「臨床と研究を振り返って」

日本臨床外科学会の学会賞は「臨床外科医として、地域医療に貢献し、多大な業績をあげ、臨床外科学の発展に寄与した者」として推薦され、学術委員会の議を経て決定されます。2024年の学会賞受賞者の一人として選ばれた土屋 誉 先生は、1979年からの45年間の大半を臨床外科医として奮闘される中、早くから「栄養」の重要性に着目されていました。本稿では、学会賞受賞講演の後に行われた貴重なインタビューをご紹介します(受賞講演のレビュー記事はこちら)。

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土屋 誉 先生の第86回 日本臨床外科学会学術集会 学会賞受賞講演のレビュー記事はこちらをご覧ください

――GLP-1やコレステロール吸収阻害など、現在、世界的に用いられている糖尿病などの代謝性疾患治療薬の作用ターゲットを先生はいち早く研究されていたのですね。どのような経緯で着目されたのでしょうか?

土屋先生 当時はガストリンやインスリンなどを測定できるようになり、消化管ホルモンの研究が隆盛になり始めた時期でした。私も胃酸分泌に対する消化管ホルモンの影響を調べていました。もとはと言えば、ある日本人研究者が戦前に、胃酸分泌を抑制するエンテロガストロンというホルモンの存在を予測していたのです。その後、カナダの研究者が「エンテロガストロンの正体を発見した」と報告し、Gastric Inhibitory Polypeptide(GIP)と名付けました。私が医者になる少し前のことです。そして先ほどお話ししたように、医者になってしばらく、胆道バイパス術の影響を研究していたところ……この話はちょっと長くなりますけど良いですか?

土屋誉先生 日本臨床外科学会 学会賞受賞記念 特別インタビュー

――ぜひお願いします

土屋先生 ルーワイ手術で胆道を再建後に、消化性潰瘍が発生することが報告されており、医局の研究グループのテーマが消化管ホルモンと消化性潰瘍発生のメカニズム解明で、その流れの中でGIPの測定も行っていました。それに加えGIPと同様に腸管から分泌される腸管グルカゴンの測定も可能となった時期でした。グルカゴンには膵臓から分泌される血糖上昇ホルモンのほかに、GLP-1、GLP-2を含む腸管グルカゴンというものもあります。講演内で示した回腸を空腸に間置することにより腸管グルカゴン分泌を促す術式は、実は私が世界で初めて報告したものです。日本語の論文だったので、全く引用されませんでしたが(笑)。

その後、GIPの胃酸分泌抑制作用はそれほど大きなものではなく、むしろインスリン分泌刺激作用が強いことや、腸管グルカゴンであるGLP-1もその作用を持つことが明らかにされ、「インクレチン」として糖尿病治療に臨床応用されるに至りました。当時は腸管グルカゴンに関心のある研究者は少なかったので、今日の状況は隔世の感があります。

――外科医でありながら内科的なご研究に携わられた理由は何でしょうか?

土屋先生 私はもともと消化管の生理に興味があり、大学でも消化管生理を研究するグループに所属していました。私は若い頃から、手術を終えた後の消化管の機能性と、その変化が患者さんの予後に及ぼす影響も気になっていました。

――それが栄養療法のご研究につながっていったのですね

土屋先生 講演でも述べましたが、「When the gut works, use it!」の重要性を実感したことが大きかったです。外科学の歴史を概観すると、麻酔の進歩などに伴い機能より根治を目指して拡大手術のみが追求された時期があり、今ではエビデンスを積み重ねながら、よりバランス良く低侵襲化を目指す流れになってきていると考えられます。先ほどから述べているように、消化管をなるべく休まないで使うことも、腹腔鏡の手術と同様に侵襲軽減につながることもわかってきたわけです。

――栄養療法によって手術の低侵襲化が可能だと?

土屋先生 そうです。その栄養療法の強力な助っ人がシスチン/テアニンであると認識しています。我々はずっと、胃や大腸の手術をしたら1週間は絶食といったことをしていました。それが必要だと教えられてきました。ところが術後早期に腸管を使うことで、炎症が早期に治まり回復が促進されることに気づかされました。シスチン/テアニンはわずか1gに満たないサプリメントながら、経口摂取によって腸管を通して全身の炎症や酸化の抑制に働きます。これらの有用性を初めて実感した時は「すごい臨床アイテムだな」と驚きました。

――どんな患者さんにシスチン/テアニンを勧めていらっしゃいますか?

土屋先生 外科の患者さんすべてです。実際、講演でデータをお示ししたように、癌患者さんの場合は手術の低侵襲化、術後補助化学療法のサポート、悪液質の予防と、治療の全期間にわたって有効性が認められます。また、抗炎症作用や抗酸化作用、免疫能賦活作用は、癌のない健康な人の疾患予防にも役立つと考えています。私自身、毎日摂取しています。また、数例の症例経験の段階ですがコロナ感染症例でシスチン/テアニン摂取により PCR 検査で早期に陰性になることも報告しています(J Oral Med Sci. 2024 2(4): 1-5.)。

一方、多くの医療機関は、手術患者さんに対して周術期のサプリメントの摂取を禁止しています。それに対して私は、周術期こそシスチン/テアニンが欠かせないとの信念のもと、自分の知り合いが手術を受ける時には、「もしサプリをやめるように言われたら『わかりました』といって『システア』だけはこっそり飲み続けて」と伝えています(笑)。このような現状を改善するためにも、シスチン/テアニンの有用性を、患者さんと医療従事者の双方に、広く伝えていかなければならないと感じています。

――シスチン/テアニンは食品ですから、医師が処方するというよりも、栄養スタッフが患者さんにお勧めすることになるのでしょうか?

土屋先生 私は直接患者さんに勧めています。また、以前は侵襲の大きい手術予定の入院患者さんの給食に、1日1回分付けていただいていました。しかし昨今、どちらの給食会社さんも余裕がないようで継続は困難になっています。やはり、医療スタッフが患者さんにお勧めしてご購入いただくという方法が良いのではないかと思います。シスチン/テアニンが薬剤ではなく以前から存在している食品であるため、いろいろな研究を行いやすいというメリットがありますが、効果をうたうことができず、また薬ではないので保険診療で使えないことは難しい点です。

栄養スタッフがシスチン/テアニンに興味をもたれた場合、恐らく患者さんに勧める前に医師に提案されるのではないでしょうか。ただ、先ほどの周術期の患者さんへのアドバイスの話ではないですが、医師の認識不足により、肯定的な反応を期待しにくいのが大方の現状かもしれません。

――栄養スタッフに向けて何かメッセージをお願いします

土屋先生 栄養は、すべての治療の基本です。そして、今の医療はチームで推し進めなければ最善の医療たり得ません。医師が知らないことはたくさんあります。チーム内で栄養については自分がプロフェッショナルであるとの自負をもち、医師やほかのスタッフと対等な関係を築きながら、ぜひご自身が必要だと思われる栄養介入を提案されることを期待しています。

土屋誉先生 日本臨床外科学会 学会賞受賞記念 特別インタビュー

――本日はありがとうございました

(取材日:2024年11月22日)

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Profile

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土屋 誉(つちや たかし)先生
公益財団法人 仙台市医療センター仙台オープン病院 院長

1979年、東北大学医学部卒業、元東北大学医学部臨床教授(胃腸外科)/日本外科学会指導医・専門医/日本消化器外科学会指導医・専門医/日本消化器病学会指導医・専門医/日本静脈経腸栄養学会特別会員/日本肥満症治療学会評議員/日本亜鉛栄養治療研究会(世話人)/日本病院会常任理事/日本外科代謝栄養学会教育指導医